「音楽障壁」に反対する理由

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「音楽障壁」に反対する理由

「音楽障壁」問題研究会設立準備会・編

[謹告]

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《C O N T E N T S》

Q:「音楽障壁」って何ですか?

A:一般に「輸入権」、政府や音楽業界が「日本販売禁止レコードの還流防止措置」と 呼んでいるものです。

日本の音楽業界が政府に「著作権を強化して『音楽障壁』を作れ」と要求するきっかけになった のは、今年1 月から始まった韓国の第4 次日本文化開放です。これに伴い日本のレコード会社 が韓国で日本のアーティストのCD を発売するに当たって、韓国でCD アルバムの平均価格が 13000~18000 ウォン(1 ウォン=約0.1 円)と日本の半額から2/3 なのが、レコード会社は「大問 題」と考えました。また、最近はディスカウントストアや高速道路のサービスエリアなどで主に台湾 から輸入された日本のアーティストのCD が売られています。このCD は違法な海賊盤ではなく、 日本のレコード会社の現地法人や日本のレコード会社から許可を受けた現地のレコード会社が 生産した「正規盤」ですから、現地で生産・出荷した段階で現地の著作権団体に著作権料が支払 われており、日本音楽著作権協会(JASRAC)を始めとする日本の著作権団体が現地の団体から 著作権料を受け取ってアーティストに配分しています。しかし、海外で生産されたCD は日本に比 べてもの凄く安いので、これを買い付けて日本へ輸入した場合にかかるコストを上乗せしてもまだ 日本盤より安く売ることが出来ます。日本のレコード会社は「これでは誰も我々が生産した日本製 のCD を買わなくなってしまう」と考え、安い輸入盤を海賊盤と同じように税関で没収・廃棄させる ことが出来るように「音楽障壁」を作るよう政府へ要求しているのです。

Q:「音楽障壁」を作らないとアーティストは困るのですか?

A:別に困りません。企業努力をしたくないレコード会社は困るのかも知れませんが。

先に述べた通り、海外で生産されたCD であってもそれが海賊盤でなければ著作権料はちゃん と現地で徴収され、そのお金は日本に送られてアーティストへ分配されるので輸入盤を買っても アーティストに損害がある訳ではありません(ただ、日本で売れた場合に比べてお金が手元に届 くまでに時間がかかるかも知れませんが)。日本で生産したCD が売れないレコード会社は困る かも知れませんが、それだったら輸入盤と日本盤を並べた時に日本盤を選んでもらえるように 「日本盤だけのボーナストラックを入れる」とか「無駄を省いて値段を下げる」とか「湯水のように 費やされている遊興接待費を削る」とかの「企業努力」をすればいいのです。それなのに、日本の レコード会社はそう言った努力をほとんどやらず政府に「CD が売れないのは輸入盤が悪い、輸 入盤が日本へ入れなくなるように『音楽障壁』を作れ」とごねているのです。

Q:どうして日本のCD はそんなに高いのですか?

A:世界中で日本1 ヶ国だけがやっている「再販制度」があり、業界がその制度に甘え て無駄が多い構造を放置しているからです。

「再販制度」と言うのはメーカー、つまりCD の場合はレコード会社が強制的に決めた値段(定価) で商品を売らせることが出来る制度です。通常は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関す る法律(独禁法)と言う法律で禁止されていますが書籍・雑誌・新聞・レコード盤・音楽用CD・音楽用カセットテープだけは独禁法第23 条でメーカーが小売店に値段を強制してもいいことになって います(「しなければならない」のではなく「してもいい」ですから、逆に「しなくてもいい」のですが、 しなかったら業界の中で「仲間外れ」にされてしまうようです)。独禁法違反を取り締まっている公 正取引委員会は、アメリカやイギリス(1997 年に制度破綻)に倣ってこの制度を廃止しようとしまし たが各業界の猛反対に遭った為、2001 年3 月に廃止を断念し「当面の間」この制度は続けられ ることになりました(その結果、これらの業種に属する企業の経営が安定しているかどうかは全く 別の問題ですが)。

但し、CD の場合は本とは少し違っていて1991 年から「時限再販」と言う制度が採用されていま す(ドイツやフランスでは本もこの「時限再販」で売られています。日本の出版業界が「ドイツやフ ランスだって再販制度をやっているじゃないか」とよく言いますが、それだったら「半永久的に定価 で売らせ続ける」のでなく、ドイツやフランスと同じように時限再販で売るようにしてから文句を言 って欲しいものですね)。この「時限再販」と言うのは「CD の発売から半年ないし1 年(最長2 年だ が、最近は短縮化される傾向にある)は定価で売ってください。その後はお店の判断で値引きをし ても構いませんよ」と言う売り方です。しかし、新曲が出た直後はどの曲も必ず定価で売らなけれ ばならないので「時限再販の期限が残っている間に海外から輸入盤が入って来たら必ず輸入盤 の方が安い」と言うことになってしまいます。

なお、本や新聞は一部の国で再販制度が実施されていますがCD を再販制度の対象にしてい るのは世界中で日本だけです。再販制度は、昔は「全国どこでも同じ値段で安く商品が買える」こ とを売り文句にしていましたが、流通網が発達したうえに紙のカタログでなくインターネットでどん な商品が売られているのかが世界中どこからでも簡単に検索できるようになった今でも続ける意 味は無くなっているんじゃないか、と言う声が日増しに強まっていることも事実です。

それに、音楽業界は「韓国も中国も台湾もマレーシアもフィリピンもタイもみんな日本より人件費 が安いし、違法な海賊盤がそこら中で投げ売りされているから値段を安くしなきゃ売れないんだ」 と言っていますが、日本のCD が高いのはアジア各国・地域と比べてだけではありません。アメリカやヨーロッパと比べても、もの凄く高いのです。

例えば、昨年11 月に発売されたThe Beatles の『Let It Be Naked』を各国のamazon で比較し てみましょう(価格・為替レートは2004 年1 月17 日現在。無印はCD-DA、◆はCCCD)。

The Beatles『Let It Be Naked』国別価格表
国名価格
日本(◆)2667 円
イギリス8.99 英ポンド(約1724 円)
アメリカ12.98 米ドル(約1384 円)
ドイツ(◆)12.99 ユーロ(約1707 円)
カナダ15.99 加ドル(約1312 円)
フランス(◆)16.95 ユーロ(約2227 円)

ちなみに、日本ではCD-DA である US 盤を1680 円程度の値段で買うことも出来ます。日本国 内でも日本盤はUS 盤の4 割程度しか売れていないと言うことですが、これは「US 盤の方が800 円ぐらい安いから」だけの理由でそうなっているのではありません。日本盤とドイツ・フランスで買 えるEU 盤は「コピーコントロールCD(CCCD)」で、アメリカで売られているUS 盤とイギリスで売られているUK盤は正規のCD-DA規格です。このCCCDは「PCを使ったCD-Rへの違法コピーや MP3ファイル化を防ぐ」為にプロテクション処理を施したディスクのことですが、このプロテクション 処理はCD-DA規格を定めた『Red Book』を無視して行われているので、CD-DA規格のライセン サーであるオランダ・フィリップス社はCCCDには「COMPACT disc DIGITAL AUDIO」のロゴを使 用することを許可しないことにしています(時々、誤ってかお客さんを騙す為かCD-DAのロゴが 付いているCCCDが発売されることもありますが)。しかし、違法コピーをしようなどと考えていな い人や個人的にカーステレオや『iPod』のような携帯MP3プレーヤーに音楽をコピーして聴こうと 思っている人、何より「CCCDを再生するとCDプレーヤーが破損してしまう恐れがある」と言うと、 ほとんどの人が「そんな物は買いたくない」と思うでしょう。また、CCCDはコピーする際の記録面 読み取りを妨げる目的でわざと大量のエラーを入れてあるので、不自然なノイズや音飛びが入っ ていたりするのですが、レコード会社はそんな「欠陥商品」をバラまいておきながら「返品・交換に は一切応じない」(消費者契約法第10条に違反する疑いが指摘されている)と言う傲慢な態度を 取るまでに至っています(そう言えば、2002年12月7日放送のNHKスペシャル『変革の世紀』最 終集で日本レコード協会の富塚勇前会長が「音楽のコピーに使われるパソコンなど売れなくなっ てしまえばいいんだ」と怪気炎を挙げていましたね)。

「『Let It Be Naked』だけではサンプルとして不適当だ」と言う批判があるかも知れませんので、もう 一例挙げてみましょう。アイスランドに拠点を置くバンド・Sigur Rosの『( )』。日本盤はエイベックス がライセンスを受けて「cutting edge」レーベルで発売しています。こちらは日本のみCCCDで、そ れ以外はCD-DA。

Sigur Ros『( )』国別価格表
国名価格
日本(◆)2427円
イギリス9.99英ポンド(約1916円)
アメリカ13.49米ドル(約1439円)
ドイツ 16.99ユーロ(約2216円)
カナダ13.99加ドル(約1148円)
フランス 7.99ユーロ(約1042円)

ドイツがフランスに比べて高いのは、このCDのEU盤がスペインで生産されているからのよう です。ちなみに、amazon.co.jpでMCA発売のUS盤を買うと1378円。これではエイベックス発売 の日本盤に誰一人として見向きもしないのは当然と言えるでしょう。

こうやって比較すると、如何に日本のCDの値段が先進国の中でも突出して高いかがよくわか りますね。これで、少なくとも音楽業界が挙げている理由のうち「人件費」は理由にならないことが わかりました。再販制度をダラダラと続けているうちに「甘え」の体質が業界に染みついてしまい、 ここまで他の先進国との格差が酷くなったのは疑うべくもありません。日本の音楽業界は、再販 制度を続けたいのなら「音楽障壁」構築なんて「甘えの上塗り」はやめてこの極端な格差を縮める 努力こそすべきでしょう。さらに付け加えると、前述したCCCDの問題点に皆が総スカンを食わせ ているにも関わらず日本レコード協会(RIAJ)は加盟レコード会社がこの欠陥商品をバラマキ続け ることを奨励しています(この問題については、後の項で詳しく取り上げます)。しかし、amazonや HMVを始めとするオンラインショップや輸入盤を扱っているレコード店では日本盤より安いうえに安心して聴けるUS 盤を買うことが出来ますし、もし日本のお店で売っていないCD でも海外のオ ンラインショップに注文すれば、送料を差し引きしても日本盤より安く買うことが出来ます(DVD や ゲームソフトは出来ない場合があります)。

もし「音楽障壁」が音楽業界の要求通りに構築されてしまったら、そんなことも出来なくなってし まうかも知れません。

Q:日本盤と輸入盤は「全く同じ物」ではないと思うのですが?

A:その通りです。売る側が「全く同じ物」と認識していても、買う側から見れば「全く同 じ物」ではありません。

レコード会社は日本盤と輸入盤を「どうせ消費者は『安い方がいい』と言うに決まってるんだか ら、同じ物だったら輸入盤の方を選ぶんだろ」と認識しているようですが、消費行動と言うものはレ コード会社側が考えているような「価格によってのみ」決定されるものではありません。まず第一 に、輸入盤はジャケットなどが当然、対象となっている国の言語で書かれています。これがアルフ ァベットや香港・台湾の繁体字中文だったらなんとなく意味を理解することが出来ますが、ハング ルやタイ語などは読めない人には全く意味が理解できません。これに対して、海外アーティストの CD の日本盤であれば日本語の解説や訳詞が付いて来ますが、現地語が読める人や読めなくて も「日本盤は高いから買いたくない」と言う人は輸入盤を選ぶでしょう。価格だけではなく、前述の 『Let It Be Naked』や『( )』のように「日本盤はCCCD で輸入盤はCD-DA」と言う場合にも輸入盤 が選択される確率が(商品によってはこの点が価格よりも大きな選択要因として働いて)高くなり ます。これを「選択的関係」と言います。もし「選択的関係」が崩れるとしたら、それは選択対象の 価格差や品質差が著しく乖離している場合ですが、他の業界では多くがこの価格差や品質差を 縮める為に血の滲むような努力をしているのに対し、音楽業界は「音楽障壁」で選択対象の一方 を強引に消し去ってしまうことで消費者から(決して、業界が考えているような「価格差」だけが基 準になっているのではない)「選択の余地」を不当に奪い去ろうとしているのです。もし、日本盤し か選択肢を与えないようにしても、お客さんが日本盤を手に取るとは限りません。「買わずにその 場を立ち去る」と言う「第三の選択」もあるのですから。

Q:洋盤の輸入も禁止されてしまうのですか? レコード会社は「海外で生産された日 本語の歌を収録したCD のみが対象」と言っていますが?

A:「洋盤の輸入は禁止されない」と言う確たる保証は、全くありません。むしろ、状況証 拠的には「洋盤の輸入も禁止される」と考えるべきです。

文化審議会著作権分科会での審議で、委員から「洋盤の輸入も禁止するつもりなのか」と質問 が出たのに対してRIAJ の担当者は「5 大メジャー(BMG・EMI・Sony Music・Universal・Warner)の 担当者から『仮に輸入を禁止できるようになっても、今まで通りで禁止するつもりは無い』と聞いて いる」と回答していますが、この回答には何の根拠もありません。「5 大メジャーの担当者」が会社 の経営方針にどの程度の責任を持つ人物なのか、その「今まで通りで禁止するつもりは無い」と言う意志は文書として公式に残されているものなのかと言った重要な点について、この場では全 く明らかにされていないからです。しかも、前述の『Let It Be Naked』であったりSigur Rosの『( )』 であったり「日本盤は再販制度で拘束されていて高額なうえに手持ちのCDプレーヤーで再生出 来るかどうかもわからないCCCDで、US盤は日本盤より4割も安いうえにCD-DA」と言うケース の場合は、それがいかなる意図に基づくものである(一説には「日本だって海賊盤が蔓延してい るアジアの一部じゃないか」と言う5大メジャー首脳陣の偏見が原因とも言われる)のかはわかり ませんが「日本はCCCD・アメリカはCD-DA」を徹底させる為にアメリカの親会社が日本の子会 社を通じて「音楽障壁」でアメリカから日本へのCD-DA輸入を阻止することが十分、考えられま す。日本のレコード会社が日本に現地法人を持たないレコード会社からライセンスを受けて CCCDを生産している場合(『( )』もそれに当たる)は、なおのこと日本のレコード会社が独断で 「音楽障壁」によって輸入阻止を実行する動機が強いと考えられます。

そもそも、現地の流通業者に商品を引き渡す際に「国内でだけ販売する」などの契約を結ぶこ と自体は(その契約に行き過ぎた部分が無ければ)認められているのですから、契約をしっかりし ておけば日本への還流を恐れる理由は無いはずなのですが、これほどまでに「音楽障壁」構築に こだわると言うのは「日本語歌謡の還流防止」が建前に過ぎず「日本国内でCCCD以外の選択 肢を消費者に与えないようにする」とか、違う所に本音があるからだと考えるのはごく自然な発想 ではないでしょうか。

こうやって考えると「日本語の歌を収録したCDだけが対象だから洋盤しか買わない自分には 関係無い」と傍観を決め込むのは非常に危険なのです。

Q:『音楽障壁』を築いて海賊盤対策に効果があるのなら、積極的に築くべきではあ りませんか?

A:海賊盤も正規盤も一緒くたに処分してしまえば「効果はある」のでしょうね。しかし、 それは海賊盤対策の本質を誤っています。

世界貿易機関(WTO)加盟国・地域は貿易に関する知的財産権(TRIPs)協定への加盟を義務 づけられており、TRIPs協定では「WTO加盟国・地域は著作権・特許・商標を保護する為の法律 を施行しなければならない」と取り決められています。2003年10月現在、WTOには148の国と地 域が加盟しており、日本のレコード会社が「商圏」として想定している韓国・中国・香港・台湾・フィ リピン・インドネシア・マレーシア・シンガポール・タイはいずれも加盟し、TRIPs協定に従って著作 権法を制定・施行していますが、これらの国・地域には著作権の最低基準を定めた国際条約であ るベルヌ条約やWIPO著作権条約・同レコード隣接権条約に加盟していない(=条約加盟国より 弱い保護しか受けられない)国・地域もあります。そうした国・地域の制度設計に関わって行き、 途上国の国際ルール参加を支援することは先進国に課せられた課題の一つと言えるでしょう(無 論のこと、アメリカのように極端なコンテンツ・プロバイダー偏重姿勢の法律を外圧で作らせるの は問題がありますが。それらは法律を作った国の利益でなく、アメリカの巨大情報産業の利益の 為に作られていると言う点は特に注意を要します)。時間はかかるでしょうが、日本が途上国・地域の著作権に関する制度設計を指導し、ベルヌ条約やWIPO 著作権条約・同レコード隣接権条 約の基準を満たすラインに引き上げる為の整備に関わることで相互の信頼関係が生まれ、利益 にも繋がります。

一方、日本国内に目を向けてみましょう。ここ数年、全世界規模でCD の売上が激減していると 伝えられていますが、音楽業界はその理由を輸入盤であったり『WinMX』や『Winny』と言ったファイ ル交換ソフトであったり CD-R へのコピーであったりと外部要因ばかりを挙げています(しかも、海 外では「海賊盤に対抗して」低価格で売り出しているのに、日本では「ファイル交換ソフトやCD-R へのコピーに対抗して」価格を下げようとする気が全くと言っていいほど見られないのがまた驚き ですが)。

このように、海賊盤撲滅は場当たり的にやるのではなく長期間を費やした「体質改善」によって 行われるべきであり「音楽障壁」によって海賊盤も正規盤も一緒くたに税関で廃棄処分してしまう ようなやり方は、乱暴過ぎるうえに対象国・地域内の海賊盤市場にとっては痛くも痒くもありませ んからいつまで経っても海賊盤撲滅には繋がらないことでしょう。

Q:どうして海外で生産されている海賊盤の流通による損失を日本の消費者が「肩代 わり」しなければならないのですか?

A:音楽業界と政府が日本の消費者を「犯罪者・文化破壊者予備軍」と考えているから のようです。何も違法なことをしていない音楽愛好者にとっては迷惑千万。

レコード会社は「東南アジアや中国では海賊盤がそこら中で投げ売りされているから対抗して 値段を安くしているのだ」と言います。マレーシアでは消費者省(日本の内閣府国民生活局に相 当)の指導で正規盤の価格に上限が設定されていて、後を絶たない海賊盤との価格競争を半強 制的に実施していたりしますが、そもそも海賊盤との競争を価格面だけで行うのは正しいやり方 ではありません。つまり、日本のみならず先進国では昔と違って「大規模な海賊盤工場」と言うも のは見当たりませんが「誰もが家庭内のPC でCD-R に曲を焼き付け、ネットでMP3 ファイルを交 換し合っている」と、まさに『一億総海賊盤生産者』であるとレコード会社は信じて疑わないようで す。その結果、レコード会社はCD-DA の規格を定めた『Red Book』を無視したプロテクション処理 を施したCCCD を我先にとこぞってバラまき、音質の悪さやプレーヤー破損のリスクを全て購入 者に押し付けて知らぬ顔をしています(国民生活センターにも苦情があり、CCCD を再生した時の リスクについての表示を徹底するよう指導がなされています。註1)。

また、政府・文化庁があたかも消費者を「犯罪者・文化破壊者予備軍」であるかのように位置付 けた滅茶苦茶な施策を「国益」と称して強引に推し進めようとする傾向が、ここ数年の「国際競争 力強化」だ「知財立国」と言ったフレーズの許で進められています。文化庁言うところの「一億総ク リエーター時代」を実現したいのなら、政府・知的財産戦略本部員である中山信弘・東京大学大 学院法学研究科教授が述べる通り「世の中というものは、知的財産だけででき上がっているわけ ではない」(註2)ことをしっかりと自覚し「利用者を権利者の足許に跪かせる」が如しやり方を見直 して「利用者との相互信頼関係」を基本とした施策を実行すべきでしょう。

(註1)国民生活センター「消費者トラブルメール箱」(2002年4-9月集計分)
http://www.kokusen.go.jp/t_box/data/t_result0209.html
(註2)第三回知的財産戦略本部議事録(2003.5.21)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/dai3/03gijiroku.html

Q:どうして「音楽障壁」構築で最も被害を受ける消費者の声が文化庁に反映されない のですか?

A:文化庁に「消費者の顔を見る」風習が存在しないからです。

音楽業界を監督指導する文化庁と言う役所は元々、消費者政策とはほど遠い位置付けの役 所であったうえに著作権に関しての業務は「業界間の(「映画に使用する音楽の料率」と言ったよ うな)利害調整」が中心でしたから「消費者の顔を見る」と言う風習が元から存在しません。だから 「消費者」を(昔のお役所が皆そうであったように)「好き勝手な要求ばかり並べ立てる集団」のよ うにしか見ていない風潮が今でも根強く「どうせ『海賊盤でも何でも安い方がいい』とか言うに決ま ってるんだから、俺たちが著作権の道筋に沿った正しい方向へ誘導してやらなきゃいけないんだ」 とでも考えている節が多々、見受けられます。

なお、文部科学大臣(文化庁は文部科学省の外局)の諮問機関である文化審議会・著作権分 科会(2001年1月に4審議会を統廃合して発足)には旧・著作権審議会の時代から「申し訳程度 に」消費者団体から1名を参加させるのが慣例となっています。現在は日本生活協同組合連合 会政策企画部長の小熊竹彦氏が分科会専門委員を務めていますが、文化庁が小熊氏の法制問 題小委員会参加を拒絶しているなどの経緯を考えると、2004年1月14日に公表された報告書で 「賛成多数」とされた意見についてもその正当性は相当に疑わしいと言わざるを得ないでしょう (実際、小委員会メンバーの2/3は各業界団体の幹部で占められていた訳ですし。しかも、他業 界の同意を得やすくする為に「レコード“等”」と「日本販売禁止レコード」以上の曖昧さを滲ませた 表現への書き換えまで提案される始末)。その小委員会でも以下のような発言が飛び出したりし ています(註3)。

先週のレコード協会との意見交換会では、消費者団体より「レコード業界は再販の優等生と思 っていたが、今回のことで裏切られた思いだ」という発言があった。最近「自分も消費者だが、消 費者としても良いと思う」と発言する権利者側の委員が最近目につくが、これは例えれば電気料 金の審議会で電力会社の社長が「自分も家庭では消費者だが、料金の値上げはよいと思う」と 主張しているようなものである。お互いに肩書きを持って、それぞれの立場を基本に参加してい るのであって、審議会で意味をなさない発言はやめてほしい。

この発言中の「意見交換会」と言うのは、業界と文化庁がスクラムを組んで消費者代表を審議 から徹底的に“排除”していることに対する消費者団体側の猛反発を受けて2003年12月5日に消費者団体(全国消費者団体連絡会・日本生活協同組合連合会・主婦連合会・日本消費者連盟・ 日本消費者協会・東京都地域婦人団体連盟)・音楽業界(RIAJ・JASRAC)・関係官公庁(文化庁 著作権課・経済産業省商務情報政策局文化情報産業関連課・公正取引委員会経済取引局取引 部取引企画課・内閣官房知的財産戦略推進事務局)の三者を交えて実施されたものですが(註 4)、当事者間の議論は全く噛み合わず、業界と文化庁は終始「意見は聞いてやったんだから有り 難く思え」と言わんばかりの傲慢さを露わにしていたそうです。

2003 年12 月 10~24 日に行われたパブリック・コメント募集にしても、大方の予想通りと言 うか「賛成676: 反対293:その他 68」と言う(最大出力で 5 ケタを叩き出す新聞・出版業界ほど の動員力ではないにせよ)業界団体の組織票総動員攻勢で文化庁は「賛成多数・原案通り承 認」と言う結論を下した(註5)訳ですが「賛成」に数えられた中には「国内の販売価格を引き下 げるのなら賛成」のような「条件付き賛成」票が含まれており、もはやこの役所が著作権法第1 条の「文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発 展に寄与す」する目的を喪失するまでに情報産業企業の利権拡大のみを是とし、中立である べき「審判」としての役割を担っていないことは明らかです。

(註3)文化審議会著作権分科会法制問題小委員会第13 回議事録(2003.12.10)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/013/03121003.htm
(註4)全国消費者団体連絡会「レコード輸入権に関する意見交換会」
http://www.shodanren.gr.jp/database/083.htm
http://www.shodanren.gr.jp/database/086.htm
(註5)著作権分科会の報告書案への意見募集の結果
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/010/04011501/009.pdf

Q:政府は「世界の65 ヶ国が『音楽障壁』を設けている」と言っていますが?

A:その数字は前提が間違っていますし、そうでなくとも「外国がやっている」だけでは 日本が『音楽障壁』を設ける理由にはなりません。

音楽業界や政府は「全世界の65 ヶ国が輸入禁止ないし還流防止制度を著作権法で設けてい る」と主張しています。ところが、元・公正取引委員会委員の本間忠良氏(2004 年4 月より日本大 学法科大学院専任教授就任予定)は

65 か国のうち18 か国がEU・EEA 加盟国だというが、域内では著作物だろうとなんだろうとモ ノの自由移動が保証されていて輸入権など行使できないので、すくなくとも17 はここから引かな ければならない(EU・EEA は1 国と数えるべきだ)。2004 年5 月から拡大EU(25 か国)に移行す るのでもっと引かなければならない(註6)

と、業界や政府による「ミスリーディング」を手厳しく批判しています。EU 域内では「物品移動の 自由」がEC 指令で定められており、地域ごとに販売テリトリーを制限して価格維持を図る「市場 分割」(2002 年10 月に任天堂が制裁金として約1 億4900 万ユーロを支払った事例などもこれに 該当)は競争法違反で処罰の対象となっています。その為、EU 域外は別にしてEU 域内では「イ ギリスではCD-DA、ドイツやフランスではCCCD」と言う売り方を徹底させることは出来ないので、 ドイツやフランスに住んでいてもCD-DA のUK 盤を購入することは可能です。

また、経済産業研究所(RIETI)上席研究員の池田信夫氏は「外国がやっているのだから日本 でもやるべきだ」と言う業界や政府の姿勢を次のように批判しています。

報告書によれば、音楽著作物の輸入禁止措置を設けている国は65 ヶ国あるというが、そ れは新たに輸入規制を行う理由にはならない。ほとんどの国が農業保護を行っていることが 農業保護を強化する理由にならないのと同じである。各国が協調して国内産業の保護措置 を削減しようという WTO(世界貿易機関)の目的を、文化庁は理解しているのだろうか。「他の 国もやっているから日本もやる」というのなら、まず世界中で日本にしかない音楽著作物の再 販制度をやめてはどうか。(註7)

(註6)本間忠良「ネット音楽とアナルコ・キャピタリズム」
http://www013.upp. so-net.ne.jp/tadhomma/AnarchoMusic.htm
(註7)池田信夫「輸入盤を『非合法化』する著作権法改正」
http://www.rieti.go. jp/it/column/column031217.html

Q:「音楽障壁」は1999 年の著作権法改正で新設された譲渡権(第26 条の2)が国内・ 国際を問わず消尽(Exhaustion)する規定と矛盾していませんか?

A:この矛盾をクリア出来なかったから、業界や文化庁は「輸入権」と言う呼び方をやめ たのです。

2002 年11 月20 日に開催された公正取引委員会の「デジタルコンテンツと競争政策に関す る研究会」(註8)で、以下のようなやりとりがなされました。「○」は研究会側・「●」はRIAJ 担当 者(生野秀年事務局長?)の発言。

○ 日本からライセンスしたCD だけに限定することができるのか。例えば、アメリカのレコー ド会社が日本に設立した総代理店を保護するために並行輸入全体を禁止することにつ ながっていくのではないか。

● それは日本のライセンシーがどのように考えるかだろう。基本的に、洋盤の並行輸入を 差し止める必要性については聞いていない。また、契約の効力は当事者以外の第三 者には及ばないことから、いったん海外で流通したCD の輸入禁止は法改正によるし かない。

○ 日本の著作権法では国際消尽する譲渡権が定められたところだが、輸入権を創設する との主張はその譲渡権の国際消尽についての考え方と相反するものではないか。

● 国際消尽しない譲渡権に改正するという趣旨である。国内消尽は構わない。なお、米 国では既に輸入権が定められており、また、欧州でも、欧州共同体の域外では頒布権 が消尽しないこととなっているため、それぞれ域外からの安価なCD の輸入を禁止する ことが可能となっている。

(中略)

○ 輸入権の問題は並行輸入や内外価格差の問題に関連すると思うが、そもそもアジアか ら輸入される CD が問題となるのは、内外価格差があるからだ。マーケットがアジアにも 拡大して全体のコストが低下している中で、現行著作権法の体系を崩す輸入権を設け るのは行き過ぎなのではないのか。

結局、この時のやり取りで指摘された問題点をクリア出来なかったことなども有ってか「輸 入権」と言う呼び方はされなくなったようなのですが、2003 年12 月 3 日に公正取引委員会 が文化庁との法令協議で示した見解(註9)も、この時のやり取りを踏襲していると考えられ ます。なお、EU に関しては前述した通り域内に関しては指令により「物品移動の自由」が絶 対的に優先するので EU・EEA 加盟国を 1 ヶ国ずつカウントして輸入・還流防止を実施して いる国を「65 ヶ国」とする誤りについては前述した通りですが、アメリカの場合も音楽業界が 考えているほど単純な構造ではありません。

アメ リ カ著作権法第 109 条(a) では頒布権の消尽( First Sale Doctrine, もし く は Exhaustion)、つまり「権利者が一旦、適法に市場で流通させた時点でその権利は無くなり、 その後は流通を禁止・制限する権利を行使できない」ことが明示されています。その一方で 第 602 条(a)では著作権者に「アメリカ以外の国からの輸入を禁止する権利」を与えており (但し、政府などの公的機関による輸入・観光客が海外で購入した正規品の輸入などは対 象外。また、輸入品が海賊盤などの違法な複製物でない場合は税関による没収・廃棄など の処分は行われない)「アメリカで生産し、海外へ輸出した商品がアメリカへ逆輸入された 場合は109 条(a)と 602 条(a)のどちらが優先するのか」について長年、論争の的となってい ました。しかし、1998 年に連邦最高裁で下されたQuality King 事件判決で 109 条(a)は602 条(a)に優先し「アメリカで生産されて海外で販売する為に輸出(この時点で109 条(a)の規 定により頒布権が消尽)した商品については、それが再びアメリカへ戻って来ても602 条(a) は適用されない」ことが最終的に確定しました(註10)。

何より『Let It Be Naked』や『( )』の例を挙げて検証した通りアメリカ・EU とも CD の価格は日 本と比べても非常に安く外国からの「還流」があったとしても需要はほとんど無い状態です。日 本だけ「還流」に需要が集中するとすれば、それは日本盤が他の先進国と比べても極端に高く 「選択的関係」が崩れているからに他成りません。

なお、公正取引委員会は「今回、CD 等に輸入権を認めると、今後、他の著作物(ゲームソフト、ビデオ等)について同様の権利を求める要望がなされた場合、輸入権の対象が拡大するお それがある」としていますが、ビデオソフトについては頒布権による輸入禁止が認められた事 例が1 件存在します(101 匹ワンちゃん事件-註11)。もっとも、この頒布権についても2002 年 4 月25 日の最高裁判決(中古ゲームソフト事件-註12)が頒布権の消尽に関して「当該著作物 の複製物を公衆に譲渡する権利は、いったん適法に譲渡されたことにより、その目的を達成し たものとして消尽し、もはや著作権の効力は、当該複製物を公衆に再譲渡する行為には及ば ないものと解すべき」としており、国内消尽と国際消尽について区別していないことから「もはや 101 匹ワンちゃん事件は国際消尽否定の根拠たり得ない」とする意見も提示されています。

(註8)デジタルコンテンツと競争政策に関する研究会(第6 回)議事概要
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/02.november/02112701.pdf
なお、権利の消尽については第7 回議事概要も併せて参照
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/02.december/02121002.pdf
(註9)レコード輸入権創設に係る公正取引委員会の考え方
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/013/03121003/002.htm
なお、「デジタルコンテンツと競争政策に関する研究会」報告書も併せて参照
http://www.jftc. go.jp/pressrelease/03.march/03033103.pdf
(註10)ソフトウェア情報センター「Quality King v. L'anza」解説
http://www.softic.or.jp/YWG/reports/Lanza/Lanza.html
(註11)平成5 年(ワ)第4948 号損害賠償請求事件
http://civilpro.law.kansai-u.ac.jp/kurita/casebook/heisei/06/h060701tokyoD.html
(註12) 平成13 年(受)第952 号著作権侵害行為差止請求上告事件
http://civilpro.law.kansai-u.ac.jp/kurita/casebook/heisei/14/h140425supreme2.html

Q:『音楽障壁』構築は、小泉首相が提唱する『東アジア共同体』構想や民主党・菅 代表が提唱する『アジア連合』構想に逆行し、その実現を妨げるのではありませ んか?

A:もちろん逆行しています。政府・文化庁は日本一国の音楽業界の矮小な利益の為 にアジアとの文化交流を妨げようとしているのです。

EU 域内での「物品の移動の自由」が認められていることを前提にすると、小泉首相の『東ア ジア共同体』にせよ菅代表の『アジア連合』にせよ「域内での物品の移動は自由である」と言う ことが前提になるでしょう(もちろん、共同経済圏内での物品移動を完全に自由化することに 対して短期間では解決しない問題もあり、異論も存在することは事実です)。

EU は「アメリカに対抗し得る経済の軸」としての共同経済圏を創ることを目的の一つとして いますが、第二次世界大戦後、日本人自身が「アジアの中の日本」と言う位置付けに立って考 えることがなかなか出来なかった状態からようやく脱却し「アジアの中の日本」を自覚し始めた中で提唱されたのが『東アジア共同体』構想であり『アジア連合』なのでしょう。それにも関わら ず、音楽業界や文化庁はアジアを「良きパートナー」や互いに切磋琢磨して磨き合う「良きライ バル」としてではなく「日本のエンターテインメント産業への脅威」としか見なしておらず、韓国 や中国・台湾などを「仮想敵」と位置付け「国際競争力強化」と称して「音楽障壁」で本末転倒 な「国内消費者からの搾取・収奪」をやろうとしているのです。

彼等の「アジアとの文化交流」促進に後ろ向きとしか評し得ない姿勢は、彼等が称する「日 本販売禁止レコードの還流防止措置」と言う呼び方にもその一端が見えています。何故なら、 音楽業界は「洋盤の輸入も禁止するつもりじゃないか」と言う批判に対して「対象は日本語歌 謡だけだ。洋盤は今まで通りで対象にしない」と言っていますが、それならば何故「日本“語”歌 謡」と明記しないのでしょう? 「後からいくらでも拡大解釈が可能なように余地を残しているから」 以外に理由はあるのでしょうか? 洋盤のCD-DA 輸入を阻止して日本国内で欠陥CCCD をバラ まく為の阻害要因を無くすことに「音楽障壁」が使われる恐れについては前述した通りですが、欧 米でなくアジアの場合を見てみましょう。日本がそうであるのと同様、アジアの各国・地域でもそれ ぞれローカルで活動するアーティストがいます。現在では、主にインターネットやアジア雑貨店の 店頭などで彼等が現地で発売しているCD について知り、購入することが出来ます。「雑貨店の店 頭で掘り出し物を探すのが楽しい」と感じる人も少なくないでしょう。しかし、彼等が現地の日系な いし「5 大メジャー」系のレコード会社と契約してしまうと、こうしたささやかな楽しみも奪われてしま うかも知れません――「そのうち、人気が出たら日本盤を生産して売り出すかも知れない」と言う 理不尽な理由で。音楽業界や文化庁は、それが「アジアとの文化交流」破壊でなく何だと言うので しょう?

このように「音楽障壁」の構築は経済・文化のどの面からも肯定すべき理由は何一つとして存 在せず、日本を「情報亡国」へと導く愚策以外の何物でもありません。前述・中山教授は文化審議 会委員(著作権分科会主査)でもありますが、12 月17 日に開かれた政府・知的財産戦略本部第 6 回会合で知的財産戦略推進事務局の「プロコピーライト路線」偏向姿勢を激しく糾弾し、本部長 である小泉純一郎総理大臣に対して次のように辣言を呈しています(註13)。

今日はちょっと違うことですけれども、事務局の在り方について、余りにも独善的であるので、 ちょっと異議を申し述べたいと思います。

私は本部員として、専門調査会でメンバーである必要はないのですが、オブザーバーとして 意見を述べたいと申し上げておりましたけれども、一切拒否されております。その理由は官邸の 意向であるということでございます。私、まさか総理の意向であるとは考えていないんですけれ ども、いずれにいたしましても、事務局にはまともに議論をしようという真摯な態度がどうも私に は感じられません。 したがって、この報告書には私の意見は反映されておりません。こういうこ とでは、私は本部員を続けている意義はないと考えております。

(中略)

仮に今の改革ができたといたしましても、現実に裁判等々を運営していく知財の専門家から、これほどまでの怨嗟の的になっていて、果たして実効性のある改革ができるかという点を私は非 常に危惧しております。

5月にこの本部会でも申し上げましたけれども、事務局はあくまでも本部の事務局でありまして、 事務局自体が特定の見解、特定の案に固執するとか、特定の本部員を排除して、政治家や財 界のトップと話しをつけて決着をするというたぐいのものではないと私は考えております。 時間 の関係でこれ以上詳しいことは申し上げませんけれども、とにかく急ぐだけが能ではないわけで ありまして、各界に十分議論をする機会と時間というものを与えてほしいと思います。

私にとって、先ほど言いましたように発言の機会は今日しかないわけであります。したがいまし て、私としていたしましては、重大な決意を持って申し上げているわけでありまして、総理として も、重みを持って受け止めてもらえれば幸いでございます。

その中山教授が中心になって起草した知的財産戦略大綱(註14)より。

競争上の弊害の除去については、独占禁止法を中心とした競争法がその中心をなし、必要 に応じてその強化も欠かせない。米国においては、知的財産の独占に対しても独占禁止法が 厳しく適用されており、そのことが競争を生み出し、その結果として新たな産業の発展につなが っている。我が国においてもバランスのとれた適切な対応がなされなければならない。

この一文に基づいて、知的財産基本法では以下のように規定されています。

第十条(競争促進への配慮) 知的財産の保護及び活用に関する施策を推進するに当たって は、その公正な利用及び公共の利益の確保に留意するとともに、公正かつ自由な競争の促進 が図られるよう配慮するものとする。

業界や文化庁から言わせたら「こんなものはただの努力目標だ」と言うことなのでしょうか。前 述・池田信夫氏は以下のように締めくくっています(註7)。

資源の乏しい日本にとって、自由貿易を守ることは最優先の国家戦略ではなかったのか。売り 上げがGDP(国内総生産)の0.1%にすぎない音楽業界のために、こんな無意味な輸入規制を 行うことは、海外の反発を招くばかりでなく、「知財戦略=業界保護」という印象を与えて、その価 値も失わせることに気づくべきである。

(註13)第六回知的財産戦略本部議事録(2003.12.17)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/dai6/06gijiroku.html
(註14)知的財産戦略大綱(2002.7.3)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki/kettei/020703taikou.html

《参考資料》※註記で挙げたもの以外を紹介

◆ 河北新報・2003.12.28付社説「著作権法改正/輸入権創設には疑問あり」
◆ 笹山登生「ファースト・セール・ドクトリンの明確な位置づけなくして、レコード輸入権の創設なし」
http://www.sasayama.or.jp/opinion/S_32.htm
◆ 全国消費者団体連絡会提出の意見書
http://www.shodanren.gr.jp/database/088.htm
◆ 日本生活協同組合連合会提出の意見書
http://www.jccu.coop/Press_Release/Press_031225_01.htm
◆ 日本消費者連盟提出の意見書
http://www1.jca.apc.org/nishoren/statement/statement-contents/sc-031224%20reko-do.html
◆ 日本弁護士連合会提出の意見書
http://www.nichibenren.or.jp/jp/katsudo/sytyou/iken/03/2003_68.html
◆ 小倉秀夫弁護士(東京平河法律事務所)提出の意見書
http://www.ben.li/article/PubCom200312.html
◆ 市川穣弁護士(虎ノ門南法律事務所)「レコード輸入権-求められる総合的政策判断」(『Causa』Vol.10掲載)

・あとがき・

もし「音楽障壁」構築に反対することで「国賊」と罵られるのなら、喜んで罵られましょう。

「同じ『賊』でも『義賊』でありたい」と願いながら。

January 18, 2004(SUN) 筆者しるす

[奥付]

発行:「音楽障壁」問題研究会設立準備会
文責:謎工(元・POWER TODAY住民)
http://blog.melma.com/00089025/
mailto:nazokou@digital-law.office.ne.jp
最終更新:2004年1月27日
公開:2004-04-05 更新:2004-04-06